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FM浦和 森谷明仙 こころの日めくり

 

書へのオマージュ 森谷明仙ひとりごと
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            2018年2月25日 大宮盆栽美術館 「欅」盆栽に魅せられて



               大宮盆栽美術館で
               「竹山浩 自然を巡る雑木の匠」展が行われている。

               ポスターの欅の写真に釘づけになってしまった。

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               「欅」に憧れて、この「欅のまち」に越してきた。
               25年も前のことだ。
               「大きくなって困るよ」と植木屋さんに心配されたけど
               小さな庭に「欅」を植えた。
               以来、いつもその欅と一緒に、四季を過ごしてきた。

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               春、新緑・・・明るい光をあびて
               生まれたばかりの
               黄緑いろの精たちは
               風になってリビングに訪れた。
               夏を迎える頃、それは深い緑いろになって
               母のふところのように、やすらぎの木陰をつくり
               父の両腕のように茂った。
               秋になれば、朝、窓をあけるたびにこころときめいた。
               夜中に染色でもされているかのように、日に日に鮮やかに
               色づいていくその変化は、息をのむように美しく、
               幾度、シャッターを切ったことか。
               冬になれば、葉を落とした枝々から
               あおぎ見る青空は、ふるさとを想わせた。
               すっくと伸びている、裸のそれは、空を更に高くした。
               生活と共にあったわが家の欅。
               その大事な大事な欅が、数年前の強風で
               根元から倒れてしまった。

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               わが家をずーっと見守りつづけていてくれた欅。
               がっかりと肩を落として、ことばも少なげな私に
               植木屋さんが言った。
               「大丈夫、根元に若木が生まれているよ」
               うれしかった。
               2階にあがって真上から、何枚も、何枚もシャッターを切った。

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               産まれたばかりのその欅の若木は、まだ小さいけれど
               まっすぐに空にむかって伸びていた。
               うれしかった。
               この欅といっしょに、又、生きていこうと思った。
               その欅も、今はもう、直径15センチにもなって、2階の
               ベランダまで届いている。

               私をとりこにしてしまう「欅」
               その「欅」の盆栽のポスターを見た時
               その崇高さに立ちすくんだ。
               わが家の向かい側にある大宮盆栽美術館の催物案内のポスターだった。

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               美術館の訪問客が多い。
               きっとにぎわっていることだろう。
               展示期間を気にしながら、毎日、案内のポスターの前で
               その「欅」に見とれて憧れていた。
               そして会いに行った。

               無い! ない! ナイ!?
               顔見知りの受付の方が
               「一昨日、入れ替えたの。竹山さんの芙蓉園に行けば
               まだ、見れるかもしれない」と教えてくれた。
               この「欅」の盆栽は
               盆栽町「芙蓉園」の雑木盆栽の世界的大家、竹山浩さんの手によるもの。
               腰の痛みも残っていて、足の運びもおぼつかないけれど
               とにかく、あの「欅」に会いたくて必死に歩いた。

               大丈夫!!
               その「欅」は出番を終えて
               芙蓉園さんの庭で、他の「欅」たちに囲まれて
               静かにすわっていた。
               葉を落とした「欅」のたたずまいとは
               こんなにも美しく、おだやかにものか・・・ただ見入った。

               まっすぐ立ちあがった幹は、たとえようもなく暖かで、太くて
               空にむかって円を描くようにぎっしりと伸びている枝々を
               しっかりと支えている。
               春になったら、この幹が枝々の先の先まで
               大量の水を吸い上げて届けて
               緑葉(みどりは)を放っていくのだろう。

               ずーっと見ていたら、自然に涙がこみあげてきてしまった。
               緑の葉におおわれてしまっている時には
               決して見ることはできない枝々の年輪を重ねた美しさといったら
               もうたとえようもない。
               まるでレース編みのよう。
               
               「私がここに来たのはもう30年以上も前。
               その時は、もうすでに、こんなでしたよ」
               芙蓉園の盆栽師さんが、幹の太さを手で示しながら教えて下さった。
               数十年もにわたる、けやきと職人さんとの対話を経て
               今、このようにその歴史と輝きを放ち伝えている。
               そうして、私も今、このようにして「欅」と話させて頂いている。
               それはいのちの気脈のようだと思った。

               後ろ髪を引かれるような想いで園を後にしたが
               最終週、もう一度、大宮盆栽美術館の、今度は「真の間」に
               展示されるとお聞きした。
               「真の間」に展示される、この「欅」
               その時は、どんな世界がつくりだされるのだろう。
               晴れの舞台でしっかり見せて頂こう。
               きっとまた、違った景色に出会えさせていただけるのだと思う。

               藤樹園さんに預かって頂いている
               私の「けやき」に会いたくなった。
               あしたは会いに行ってみよう。
               身体が熱くなってきた。
               そんな自分がうれしい。


               昨年の、世界盆栽大会の折、大宮盆栽組合の依頼で、
               記念ののれんをつくった。

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               そこに 「いにしへの 趣きつなぐ 盆栽は 宙つくる」 と書き入れたが
               盆栽の放つ宇宙的ともいえるエネルギーを
               あらためて知った思いがする。

                                       森谷 明仙
                                          moriya-mmi@lagoon.ocn.ne.jp



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